相続の手続きには、法定相続人(法律上で相続することが決まっている配偶者や血族(子や孫など))へ遺産を引き継ぐ「相続」と、遺言書などに沿って法定相続人以外の方へ遺産を引き継ぐ「遺贈」などがありますが、これらの相続の発生(被相続人が亡くなって)から行うもの以外にも、将来的に被相続人となるご本人が、ご存命の間に財産を引き継ぐ「生前贈与」という方法もあります。
生前贈与とは、存命中に財産を他者へ無償で与えることを指します。つまり、生前贈与するお相手としては、法定相続人以外にもご本人が希望する方へ財産を引き継ぐことが可能です。また、生前贈与では、現金や預貯金、土地や建物などの不動産、株式などの有価証券、宝石や貴金属など、さまざまな財産を引き継ぐことができます。
生前贈与を行う場合、次のようなメリットがあります。
【生前贈与のメリット】
◎法定相続人以外にも財産を渡すことができる
遺言書を遺さない場合、法定相続人以外の人へ財産を渡すことはできません。
遺言書を遺す場合は「遺贈」によって第三者や直接の相続人でない孫などへ財産を渡すこともできますが、法定相続人となる親族が納得するかどうか、心配が残ります。
◎さまざまな財産を、自分が希望する相手へ、自分の好きなタイミングで確実に継承できる
生前贈与であれば、自分自身で財産の引き継ぎに立ち会ったり、その結果を見届けたりすることができます。
◎子どもや孫が、住宅資金や学校入学費用に利用したり、将来の資産形成に役立てたりすることができる
生前贈与であれば、財産を相続より早い段階で、子や孫の住宅資金や学校入学費用などに活用することができます。
◎遺産分割で、親族がもめる心配が無くなる
土地や建物などの不動産は分割することが難しいため、遺産分割協議で誰が相続するかをもめることがあります。
また、親族が遠方に住んでいて話し合いが難しく、遺産分割協議に時間がかかることがあります。
生前贈与であれば、遺産分割協議より前に財産を渡すことができますので、このような遺産分割時の心配が無くなります。
◎贈与税や相続税を節税できる場合がある
「生前贈与をすれば贈与税はかかるが、相続税はかからないのではないか?」と思われるかもしれません。しかし、相続発生日より7年前までの間の生前贈与は、相続税の課税対象になります(2023年の税制改正により「相続開始前3年間」から「7年間」に延長されました)。
ただし、課税対象になる方は法定相続人及び受遺者(遺贈を受ける方)ですので、贈与のみを受けた方(たとえば、直接の相続人でない孫など)の贈与を受けた額は、相続税の課税対象になりません(代襲相続人となる孫が贈与を受けた額は、相続税の課税対象です)。
また、法定相続人及び受遺者になる方でも、節税のために以下の方法を活用することが可能です。
①暦年贈与(暦年課税)
贈与を行う場合、年間で贈与した財産の金額が年間110万円以下であれば、基礎控除となるため贈与税がかかりません。
暦年贈与とは、その贈与税の1月1日~12月31日までの1年間(暦年)の基礎控除を活用した贈与方法を指します。
ただし、贈与税は「贈与を受けた方の、贈与を受けた年間合計額」が課税対象となりますので、贈与を受けた方が、複数の方から贈与を受けた年間合計額が110万円を超えた場合、その総額に対して贈与税がかかりますのでご注意ください。
また、前述の通り、贈与税が課税されなかった金額についても、相続発生日より7年前までの間の生前贈与は相続税の課税対象になります(生前贈与加算)。
②相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母などから18歳以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合に選択できる、贈与税・相続税を通じた制度を指します。
この制度を活用すれば、年間110万円以下の生前贈与額は、①の「生前贈与加算」をされないため、贈与税も相続税もかかりません。また、生前贈与を受けた合計額のうち2500万円までは、相続税はかかりますが贈与税はかかりません(特別控除)。
ただし、この制度を活用するためには、贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日の間に「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。また、特別控除額は、贈与税の期限内申告書を提出した場合に限り控除されます。
なお、相続時精算課税制度は贈与者(父母または祖父母など)ごとに選択できますが、一度選択した贈与者(特定贈与者といいます)から贈与を受ける、その後すべての財産(相続時精算課税適用財産)が対象となり、暦年課税へ変更できなくなりますのでご注意ください。
「それなら、相続財産は生前贈与すれば良いことづくめではないか」と思われるかもしれませんが、生前贈与には次のようなデメリットもあります。
【生前贈与のデメリット】
◎生前贈与をした本人の老後資金が足りなくなる場合がある
◎同一財産の譲渡でも、相続税より贈与税のほうが多くかかる可能性がある
相続税と贈与税は、税率で比較すると贈与税のほうが高いといえます。たとえば、最高税率55%が適用される対象は、相続税は法定相続分に応ずる取得金額が6億円を超える場合であるのに対し、贈与税は基礎控除後の課税価格が3,000万円(一般税率)や4,500万円(特例税率)を超える場合となっています。
特に、不動産を譲渡する場合は贈与税を基礎控除内に収めることが難しく、不動産の移転登記にかかる登録免許税も、相続なら0.4%の税率ところが生前贈与は2%の税率となりますので、不動産の生前贈与を行う場合はかかる税金に注意する必要があります。
◎贈与税の基礎控除額内であると証明しなければならない場合がある
暦年贈与でも前述の通り、年間合計額が110万円を超えると基礎控除をされなくなり、贈与税がかかります。
また、相続時精算課税制度を活用する場合も生前贈与額が年間110万円以下でなければ「生前贈与加算」の対象となります。
そのため、節税するためには契約書などを作成しておいたほうが、贈与を受けた額の証明になります。
◎生前贈与を受けた現金を使用し、被相続人の死亡後に相続税の支払いができなくなる場合がある
◎不動産の価値が生前贈与を受けた年より相続時点で下がっていることで、相続による承継より税金がかかる場合がある
このため、生前贈与を行うかどうかを決める際には十分に注意する必要があります。
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